02.寝る前のおしゃべり
『ほんっとーに、ありがとーございました!神様仏様メイル大明神様』 『っとに、いつもの事ながら、ちゃんとしてよね。もー私眠くて・・・』    語尾があくびで遮られるのが聞こえた。      何だかもう恥ずかしくて赤面モノなんだけれど。  今日も熱斗君はいつも通り宿題を忘れて、いつも通りメイルちゃんに教えてもらっていたりする。    通信が終わりそうな気配を見て取ってこっそり様子を覗くと、 パジャマ姿のメイルちゃんが宿題関係のプログラムを閉じている処だった。  相対するはこれまたパジャマ姿の熱斗君。 お風呂から戻ってきてから結構な時間が経っていて、すでに髪の毛は半分ほど乾いてしまっている。 (まぁこんなところで愚痴ってもしょうがないんだけど、 少なくとも僕は熱斗君が自分からドライヤーをかけているを見たことがない。 いつもそれで寝癖が酷くなるって言うのに)     『じゃーね、熱斗』    どうやら長々と続いた通信もやっと終わることになったようだ。  再度横から見えたメイルちゃんは半ば夢の世界の住人で・・・。  声には出さないでお礼と共に謝っておく。   『あぁ、明日学校でな。おやすみ〜』 『おひゃひゅみぃ』    日本語の原型すらとどめていない単語を最後に通信がとぎれ、回線が落ちた。  直後、入れ替わるようにして、僕は呆れとも落胆とも言えない感情を抱え画面の前に立つ。   「で?宿題終わったの?熱斗君」 『終わった終わった終わりました〜。これで明日まり子先生に怒られずにすむぜ』    うきうきしながら満面の笑みで答える熱斗君。微妙な皮肉なんて通じやしない。  気がついたときにはあんなに慌ててたのに、終わったとたんにこれだ。  プラス思考なのか脳天気なだけなのか・・・多分十中八九後者だろうけど。   「あのね、いつも夜遅くにメイルちゃんに教えてもらっちゃって・・・。悪いとは思わないの?」    データの保存やら転送やらをしながら、とりあえず道徳観念にそって注意する。   『いいのいいの。ところでロックマン、明日の予定は?』 「良くないから言ってるの。もう、ぜんっぜん分かってないんだから」    そうして手元で開いたのはスケジュール帳。  いいように話を逸らされたことを知りながらもナビたる者、やるべき事はやらなくてはいけない。   「明日は・・・授業の時間割変更は無し。他の予定は特に何も入ってないよ」 『そっか』    疲れが出たんだろう。熱斗君はあくびと共に盛大な伸びをした。  まあ時間が時間だし、小学生が夜更かしなんてしちゃいけない。 僕自身、熱斗君にはもうそろそろ寝てもらうべきだとは思う。    ただしそれは、やるべき事をやった後での話しだ。   『んじゃ、俺も寝よっかな』    ・・・・・・・・・・やっぱりいつものパターンか。   「熱斗君〜〜、歯は磨いた?時間割は?服の準備はしてあるの?」 『あー、もうちょっと後でやるよ』 「って、ちょっと、布団に入っちゃダメだって。そのまま寝ちゃうでしょうが」    同じ事をして言うことを聞いてくれたことは片手で足りるほど。  確率から言ってこんな状態にまでなったら結果は決まりきっているけど、   『ちょっとだけちょっとだけ。おやすみ〜』 「こらーーー」    つい叫んでしまう。  あぁ、空しい。        直に聞こえだしたのは規則正しい寝息。   「やっぱり寝ちゃった。ああ言って起きれた試しってないのに全く」    愚痴りながらも、しっかり部屋の電気を消したり目覚ましのタイマーをかけたり。 (弟馬鹿って言うんだろうか、こう言うの) とかなんとか考えながら、ベットで幸せそうに寝ている自分のオペレータに、つい口元がほころぶ。   「おやすみ、熱斗君」     部屋の明かりはすべて消え、安らかな夜は更ける。            
て言うか寝てしまったとき電気を消してほしいのは 他ならぬ、にわたずみ本人(消せよ) ろっきゅん、僕の処に来てくれ。