04.ネットバトル
  「…また、会う事は可能か?」 「ん?」    攻撃をあてた覚えはないが、それでも身体にチェックを入れている彼女。  その後ろ姿に、訊かずにはいられなかった。  私の求めるモノを持つ存在。  私の遙か先をいく存在。  再び戦うことができるなら、僅かな可能性でもすがらずにはいられない。    そしてまた、これが無意味であろう事も分かっていた。  この数日、捜し続けて偶然出会えたような彼女に、そうそう会えるはずもない。  第一、“島”を荒らした張本人が無罪放免と言うこともない。    だが、気に入ったと言った。    だから――   「私は、強くならねばならない理由がある」    私には力が要る。   「ん〜…そうねぇ」    口元に指を当てた彼女は一瞬だけ思考し、意地悪く笑った。   「アンタがオフィシャルに合格すれば、会えるかもね」    クスクス、と。良いことを思いついたと自分の考えに満足しているのか。  そのまま彼女は私に背を向け遠ざかる。   「今はまだアタシの正体…教えてあげないわ。 がんばりなさい、カプリチオ。 遁走曲としてのアタシは、そうそう正体を明かせないの」   「――違う」    遠ざかる背を追ったのは、齟齬から生まれた否定の言葉。   「ん?」    振り返った彼女は、まだ解っていない。  “狂想曲/カプリチオ”はもう消えたのだ。遁走曲によって、欠片も残さず。    なら、今ここで遁走曲を見るのは?   「スイウだ」    翠雨。茂る草木に降りかかる雨。  悠が名付けた私の名。   「…スイウか。いい名前ね」    バイ、と手が振られる。  それで最後。  プラグアウトをし、彼女は私の前から消えた。        もとどおり、本来の静けさを取り戻した空間の隙間。  一人立ち、彼女の残した軌跡を追うように上方を見上げる。  あるのは、明るい作り物の空。   「再会が先か、私が消えさえるのが先か。どちらになるのだろうな、遁走曲」    誰ともなく呟き、そしてプラグアウトをした。                  実試験が終わり、一人きりの更衣室で着替えているとPETの電子音が鳴った。  回線を繋ぐと、いつものように彼女は戻ってきた。   「おかえり」 『・・・・・・・・・・・・』    出迎えた僕に、表情は動かないがそれでも不思議そうに中にある時計をスイウは見ている。   「別に遅れちゃいないよ。思ったより早く事が済んだってだけ」 『結果は?』 「もちろん勝ってきたよ。昔とったなんとかってやつかな」 『そうか』    その様子に・・・・・・少し、訊いてもいいか迷った。  けれど、どうやら苛立ってはいないようだったから、   「珍しいね。っていうか久しぶりか。君が、負けて帰ってくるなんて」    表示されている彼女のHPは、ほとんどゼロに近かった。  辛勝、でないことは長いつきあいのおかげですぐ分かる。  修復専用のプログラムを立ち上げながら少し嫌みっぽく言ってやる。  勝手に動かれたのだから、これくらいの意地悪はしてやってもいいと思って。   『・・・・・・彼女は、強かった』    思い出すように、言われた言葉。   「・・うん」 『叶うことなら、もう一度戦ってみたい』    まさか返事があるとは思わず、驚いて頷くだけで、精一杯だった。    一途に強くなりたいと望んでいる彼女が、其処にいて。   「イヤになったら、君は止めてもいいよ」 『・・どういう意味だ』 「言葉通りさ。いつまでも、僕なんかに付き合わなくてもいいんだよ、スイウは」    ホントは前から考えていた。  自分の勝手な行動で、彼女を縛り付けたくはなかった。    僕は、ずるいのかも知れない。  答えが分かっていても、言葉で確認しなければ気が済まない。  ほんの少しの、不安のせいで。   『何を言いたいかは分からないが、』    彼女は何も変わらない。   『私たちは私たちの“兄”を取り戻す。そのための強さだ。止める理由などない』    たとえ僕のずるさを知っていても。   「・・・サンキュ」    彼女は僕のナビだから。   『私はお前のためにある』 「うん、知ってる」    彼女はそうプログラムされているから。    それでも、はっきり言い切る彼女はとても大切なかけがえのないパートナーで。  PETを握りしめ、僕は微笑む。   「じゃ、これからもよろしく」 『あぁ』        こうして合宿は終わり、手続きを終えた僕らは数日後、ネットセイバーとして本格的に活動を始めた。                  
ハイ。やっとこさ終了です! な、長かった。 でも、楽しかった♪ 視点をスイウ側で書くことを許してくれたわたさんには、 山のような感謝の意を捧げたいと思いマス☆ フーガちゃんが可愛くてvv幸せを噛み締めてたり☆ で、さり気なく、最後に悠たちの重要会話を載っけてたりします。 時間軸を考えると、本編よりも前の話。 で、同お題シリーズの〈03.ウワサ〉よりは後。 あまりにもややこしくなるようだったら、年表もそのうち載せまね(汗) あ、因みにカプリチオを狂想曲と書いたのは、ぶっちゃけ趣味です!! (あ〜あ、いっちゃった) 遁走曲の方は調べてみると「あぁ納得」って思ってもらえるかと。 えぇ、遊びましたよ(開き直り) や、名前知らないままってのにも、ちゃんと理由がありますから(きっと) ・・・・・・(逃走)
            =わたのはら= にわちゃんご苦労様でしたつーかありがとうございました! 視点を変えてリンクしながらってのは初めてでしたが、 一番楽しみにしていたのはわただったり。 二人書く人間が居るってのは幸せです。 裏ストーリーのほうも着々と進行しつつありますので、 そちらもがんばって書いていきたいなと思いつつ。