03.ハモる
  「はい、ブルースはこっちね」    いきなり仕事場に訪れた青いナビは、同時に一つのプログラムを押しつけてきた。   「じゃ、いくよ。せーのっ」    なんとも楽しげに声をあげ、空間に流れたのは一つの旋律。  手元にあるのはそれとは違う、だが同じ曲の楽譜データ。   「ロックマン」 「?」 「なんだこれは」 「何って、楽譜」    エメラルドのよく動く目が今は何かの企みに輝いていて、  こちらが困惑することをふまえた上で、今のこいつは動いている。  そこまで分かっていながら付き合うのも悪くないと、そう思えるようになったのはごく最近のこと。   「それくらいは分かっている。訊きたいのはその先だ」 「楽譜があるんだったら歌うしかないでしょ」 「どんな理屈でそうなるんだ」 「そんなこと言わずに。せっかくだし、歌って?」 「・・・・・・」    完璧なイタチごっこ。  前言撤回。  やる方は楽しいだろうが、やられる方にとっては腹が立つ。  いっそ斬れば落ち着くか?  片隅で思考したことに体はすぐに反応し、   「はは、ゴメンゴメン。だからそのソード、しまって。ね?」    向けられた表情からの反応は先のそれより僅かに早い。  ・・・・・・どうも、コイツには弱い。   「で?」 「このあいだ、授業で熱斗君と一緒に歌ったんだよ」 「あぁ、確か音声認識プログラムのテストだとか聞いているが」 「そう。でね、二部合唱の曲だったんだけど、綺麗に音が重なった時ね、何かこうふわーってなったんだ。 それがすっごい楽しくて――」    こーんなふうに、と両手を思いっきり広げて振り回して必死になって抽象的なことを伝えようとしているのは分かる。  ・・その努力は、分かるのだが・・・・・・なんだ、それは。  身振り手振りで表現されてもちっとも分からん。  と言うか、そんな原始的な方法で理解が及ぶのなら苦労はしない。   「う〜ん、もしかしてもしかしなくても伝わってないね」 「お前の腕がよく動くことぐらいなら分かったがな」 「しょうがないなぁ、やっぱり百聞は一見に如かずって言うし、」    再度例の楽譜が手渡される。  本日二度目。   「歌おう?」    可愛く小首を傾げた様子に、ブルースは己の敗北を知った。      そして数分間。  青と赤の二つの声が重なって、  一つの優しい曲が電脳世界に流れた。     「ね、どう?」    眼前には返事を期待するロックマンの顔。  歌って、あの謎の動きの理解に及んだ訳ではないけれど。  確かにこうやって自分の声とコイツの声が重なるの感覚は新鮮なもので。   「悪くはない、な」    こう言うのも、たまにはいいと。   「でしょ〜」    なにより、こんな風にコイツが喜ぶところを見られると分かったから。            
何かが可笑しい。 そう思ったのは貴方だけではありません。 ていうか、最後の方誤魔化したね。あぁ誤魔化したとも。 (開き直るな) イイサ。ブルースに歌わせたかっただけだから。 (裏題:ブル兄にデュエット歌わせちまえ計画) ・・・・・・・・・・・・・何?
        ★オマケ★ 「じゃぁブルース、今度はこれね」 「な、まだあったのか?」 「当然!他にも何曲かあるけど、なんか歌いたいのある?」 「いや・・・そういう意味ではなくてだな・・」 「んじゃこれ!!」  展開されたデータはとある流行りのラブソング。  隣には目を期待に煌めかせているロックマン。 (しまった、断れん)  結局二人は三時間ほど熱唱し続けた。