04.あくび
   くぁ〜〜〜っ    と、威勢のいい伸びと一緒に出た盛大なあくび。  目尻が微妙に潤んでしまう。   「おい、寝るのはいいがここ以外の場所でにしてくれ」    顔の向きは変わらずに、手は相変わらずキーボードと仲がよろしいようで。  気配のみでこちらの様子を察したらしい。  少しぐらい顔を向けてくれてもいいのに。   「別に眠いワケじゃあ・・・」 「その台詞、七回目だが?」 「う゛」 「お前は俺に何回運ばせたら気が済むんだ?」    炎山の所に押し掛けて、久々に会えたと思ったらまだ仕事中。  少し待てと指さされた場所はいつもの定位置。  出された紅茶に手を付けず、パソコンの前から動かない後ろ姿を眺めていたら、ゆるゆると睡魔が忍び寄ってきていた。   「このソファー、寝るのにちょうどいいんだからしょうがねぇだろ」    口をついて出たのはとりあえずの言い訳。  一番の原因はもっと違うけど。困らせたくないから。    ・・・寂しいなんて、ガキっぽすぎる。  子供だけれど子供でいられないコイツの前で、ワガママなんて言えるわけがない。    そう思っていてもやはり理性と感情は別物で。  目尻が他の理由で熱くなる。   (こんな事で泣くなよ俺)    誤魔化そうと、無理矢理あくびのせいにする。   (止まれったら)   「熱斗」 「っ!!」    閉じた口に自分のではない体温。  聞こえた声は耳元で。  視界は遮られていて。   「そう拗ねるな」    焦がれた空色の目が、少し困った様子ですぐそこにあった。   「・・・・・・拗ねてない」    色々悔しくて、今度はこっちが顔を背けて、   「ま、そういうことにしておいてやるよ」    苦笑と共に、額に新たな優しい感触。   「お陰様で仕事も終わった。もう欠伸なんて出す暇もやらないからな」  ――だからもう泣くな。            
最後とか途中とか、深読み可で。(可なんだ) 熱斗君が女々しい。・・・何で?   珍しく甘め(のつもり)