10.退屈な時間
   一言で言ってしまえば、スイウは今、最大級に不機嫌だった。     「どこまで人をこけにする気だ、貴様」    相対するは一体のナビ。  愛用の大薙刀を少し横に薙ぐだけで、デリート可能。  戦闘開始後、わずか五秒弱のことである。   「先ほどまでの威勢はどうした。まさか、出し惜しみでもしているのではなかろうな」    一段と低く発せられた言葉に、ことさら頭が左右に振られる。  目の前で無様に腰を抜かしているこのナビ。 戦る前にさんざん、やれデータ量が少ないだのやれ旧式だの馬鹿にしてくれた。  素直にデリートされるならまだしも、この体たらく。情けないにも程がある。消す価値すらない。  まあ、当初すでに“相手にするまでもない力量”との判断は下していた。 していた・・・が、売られた喧嘩は買う主義であったし、 あるいはそれだけ余裕をみせる実力が伴うかもしれぬ、と淡い期待を抱いたのだ。      結果、芳しくなかった。    不快になっただけであった。     (また、外れか)    と、再起の表現が浮かんだことに、眉が潜まる。  それは同時に同じ事を繰り返していることを実感させたから。   「もういい、行け。二度とその面、私の前に晒すな」    脅しではない。証拠に左手首を切り落とし、それでお終い。  きびすを返した後ろで、ひいこら叫びながら、最後までみっともなくプラグアウトしたナビの気配にうんざりする。      その後もめぼしい収穫はなく、たいした時間をかけずに自分のHPにまで戻ってきてしまっていた。  このHP上には基本的に最小限のものしかない。 だか片隅に、ブロック状のデータの固まりが設置されている。 それに半身を預けるようにし、バックアップデータを更新する。  上書きされたデータはほんの僅か。このところ、戦闘データが思うように集まらない。    (つまらん、な)    己が求める強いナビは、これほどまでに少なくなったのか。  いっそあのノーテンキな青い奴を引きずり出してしまおうか。  それとも刀使いに奇襲をかけるか。  もしくは・・・・・・。  連鎖的に落胆は物騒な思考へと変わり、そしてそれすらも、   「どれも、面倒だ」    実行に移すかどうかすら逡巡せずに、却下する。   (やはり先のナビとの交戦、何らかの方法でもう少し時間をかけるべきだったか?否。奴が弱すぎたのが悪い)    一通り責任転嫁をはたし、データの圧縮をすませると、方手間にやりなれたトレーニングプログラムを起動させる。     「退屈だ」      夜が明けるまであと四時間半。  悩みはつきない。            
な〜んか、物騒な子になっちゃったなぁ。 ま、せいぜい犠牲者さんに頑張ってもらうとしますか。