事件簿1僕は神サマに嫌われているのかもしれない。 ネット警察に請け負った事件の報告を終えた帰り道、僕は愛用のチャリで逃げていた。 信号も速度も法律も何もかもを無視して。 事の起こりは一瞬のことだった。が、 ――あの子に会うぐらいだったら、警察の留置場に行く方がまだましだっ! まごう事なき本音である。 小一時間ほど町中を迷走し、運良く警察にも捕まらなかった僕は、 廃ビルの路地に身を隠し息を潜め五分ほど気配をたつことに専念した。 そうして異常がないことを確信すると、そこで初めて緊張を解き、酷使した足を休めることができた。 路地は薄暗く、通りから聞こえる音は遠い。 落ち着いてみれば、すべては杞憂だったのかもしれない。 いくら何でもこれほど必死になって逃げたのだから、追いつかれる心配もない。 それに、そもそも信号待ちで対向車線にそれらしい人影を認めただけだったのだ。 「ははっ、そうだよ。うん。杞憂だ、杞憂。幻に決まってる。 第一あの子がわざわざ僕に会いに来るはずがな・・・・・・」 ほころんだ顔は一瞬にして凍り付いた。 あの声とある音が、鼓膜を破壊しそうになったとたんに。 頭上の太陽が雲に消えた。 「やっほ〜、悠♪ひっどいなぁ急にどっかいっちゃうんだもん。探すの大変だったんだから」 「なんで居るんだっ!追いつけるはずないだろぉ!!」 叫んだ言葉はもはや半泣き。 もう、逃げられない。 なんでこんな町中でたった一人の人間を追いかけるのに、社用ヘリなんか使うんだっ! 詐欺だ、金持ちなんて大嫌いだ!! 「何でって・・・遊びたかったから?」 「答えになってねぇ!僕に訊くな!!」 んな可愛い顔をしたって、僕はもうだまされないっ。 「この後時間あるんでしょ?ボクも時間作ったし、一緒に遊ぼうよ」 わざわざ時間作ってくれなくていいし、その遊び方が問題なんだ・・・てかどうして 「どうして僕の予定を知ってるんだ」 「今日はどんな服がいい?新作のがいっぱいあるんだけど迷っちゃって」 「聞けっ」 あぁもう、本トなんだってこう人の話を聞かない子ばっか居るかな。親は一体何してるんだ。 ちゃんと躾ぐらいしてくれ。 切実な願いは届かず、黒スーツの集団によってちゃくちゃくと準備が整い始めている。 要するに、 諸悪の根源の一輝と、すでに専用のオモチャに成り下がっている僕こと榊悠が一緒に遊ぶための準備が。 「い〜や〜だ〜、はなせ〜〜〜っ」 必死の抵抗も役に立たない。 『あきらめるんだな、悠。どう考えても彼から逃げられるはずがないだろう。服ぐらいで文句を言うな』 PETから聞こえてくる無情な声に、泣きたくなる。 「そんなわけにはいかないよ、スイウ。あれを着るのがどんなに恥ずかしいか、君には分からないだろぅ?」 言いつつ手にしたPETの画面には、ある意味見慣れたもう一人のナビが居た。 『こんにちわ〜』 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・なんて言うかさぁ、 こんな時、ネットナビのようにフリーズできたらいいなぁ、とか思うんだよね。 「スイウ・・・・・・」 そうだよ、何で気づかなかったよ僕。 自分のナビの反応たどるなんてそれ以上簡単なことはないじゃないか。 「君かっ僕を売ったのわぁ!!」 『何がだ?』 あくまでしらを切ろうとしてんなこいつ。 『知らんものは知らん。』 心を読むな心を。 「だぁ〜〜〜裏切りものぉぉぉ」 一人叫ぶ声はどこまでもむなしい。 「ほらほら、何してんのさ。早く行こ?時間がもったいないよ」 それが最後通牒。両脇からしっかりと捕獲された僕に、ヘリの中への道が開けた。 「っぎゃーーーーーーーーーー、来るな触れるな近寄るなぁ!」 暗転 その後何があったのかは、あえて訊かないでもらいたい。恐らくは皆さんのご想像の通りかと。 ただこの数時間後、 一輝から解放された僕の目線が、明後日の方を向き泳いでいたという事実だけが存在する。 結論 僕が神サマに嫌われているんじゃぁない。あの子が神サマよりも強いだけなんだ。 でなきゃあまりにも・・・理不尽だ。何だかね。嫌がってても悠は一輝のことは認めてるんだよ。 でもね、今更着飾るなんてとてもじゃないが無理なんだよ、悠は。(お前もだろ) てか、悠がヘタレすぎ。