200番を踏まれた佐倉壬由紀様に捧げる小説。 
壬由紀様のみお持ち帰り可能です。 
  
  
  
  
  
[ 絶対。] 
  
  
  
  
  
シンフォニーは、床を蹴った。 
刹那、自分の立っていたパネルに、もうもうと黒い煙が立ち込める。 
一度後ろに下がった後、今度は右。 
再び同じように上がる黒煙に、目を細く眇めて。 
間髪いれずに左へと避ける。 
そんな事を何度も繰り返して、もう一度後ろに下がろうとした瞬間。 
  
  
『―っ!!』 
  
  
…背後には、国境線でもあるエリアの境目。 
当然そこには、何十もの壁が立ちはだかっていて。 
―もう、逃げることは出来ない。 
そう判断した我は。 
素直に、その場へと片膝をついた。 
  
  
『…見事なものだ、雷帝。我の負けだ』 
  
  
ゆっくりと目を閉じて、止めを待つ。 
が、一向に空気は動かず。 
雷帝―テューテス=ソステヌートの気配も、微動だにしない。 
  
  
『……どうした、雷帝。止めを刺さぬか』 
『……チェ…姉…?』 
『?』 
『ちが…う、あなた、シンフォニー…違う』 
  
  
眉が跳ねる。 
思わず見開いた瞳で、雷帝を見つめると。 
彼は、我のほんの数パネル向こうで…ただ、呆然と立っていた。 
  
  
『…な、で…何、で、アチェ…姉』 
『…』 
『アチェ、姉…でしょ?シンフォ、ニーじゃ…ない…』 
『…雷て…』 
『こたえてっ、アチェ姉なんでしょっ!』 
  
  
普段は全く口を開かない、彼が。 
激昂、している。 
狼狽し、困惑し…悲壮な眼で、こちらを見つめ返してくる。 
  
  
『何、で…こんなトコ、いるのっ…』 
『…雷、帝…』 
『アチェ姉、危ない、からって…ウラにも、来ないんじゃ、なかった…の…!?』 
  
  
雷帝の、幼く―大きな瞳から、涙が零れ落ちたのを見て。 
我は。 
―姿を、変えた。 
濃紺と燻しの金のアーマーは消え、藍色のスーツは黒く染まり。 
その上に、幾重にも重なる―白いロングブーツと、ロンググローブのデータ。 
最後に、ヘルメットの色が桃色へと変わり。 
床につきそうなほどに長い、ドレスのようなスーツが。 
淡い桃色に変わったのを見て、彼は。 
一層、大粒の涙を零した。 
  
  
『…っ、ふえ…っ…!』 
『…泣かないで、テュート』 
  
  
立ち上がって、ゆっくりとソステュートに近づく。 
極力優しく、その頬に触れて。 
涙を拭うと。 
…彼は、一瞬身体を強張らせたけれど。 
私の腕を、振り払うことはしなかったから。 
衝動に身を任せて、その幼い身体を―きつく抱きしめた。 
  
  
『ごめんなさいね…嘘ついてて、ごめんなさい…』 
  
  
ヘルメットからはみ出したくせっ毛を、優しく撫でつけてやる。 
しばらく泣き続けていた彼。 
撫でてやっているうちに落ち着いたのか…次第に、嗚咽が小さくなっていった。 
  
  
『…アチェ、姉…っ』 
『絶対、言わないで頂戴』 
  
  
何か言う前に、その言葉を遮る。 
大きな瞳が涙に濡れて。 
いまだ小さくしゃくりあげながらも、私を見つめ返す。 
  
  
『まだ言えませんけど…しなければいけない事が、ありますの』 
『アチェ…姉…』 
『絶対に、誰にも言わないで…内緒にしてくださいまし』 
  
  
しい、と。 
指を唇に押し当てれば。 
…彼も同じように、唇の前に指を立てた。 
  
  
『わか…た…』 
『テュート…』 
『アチェ姉は、賢い、から…』 
『…』 
『間違ってない、って…信じ、てる…から…黙ってる…』 
  
  
ないしょ、ね。 
そう言ったテュートは…私に、ゆるく抱きついてきて。 
まだ言えない。 
過去の遺産である、負のプログラムのこと。 
昔、人間がどれだけ醜い実験をしてきたか。 
  
  
『いつか…絶対、話しますから…』 
  
  
幼い姿に、どれだけ大人に育った精神を持っているのか。 
テュートをきつく抱きしめながら。 
私は。 
  
そんな日が来なければいいと、切に願った。 
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
遅れて申し訳ありませんでした…! 
以前アッチェレランド姉様が好き、と言ってくださったので 
アチェル姉&ソステュートで書かせていただきました。 
でも意地悪さは出せませんでした… 
もうなんだか出来がどうとか内容がどうとかの前に 
遅れて申し訳ありませんでした。(泣)
これからも仲良くしてくださいませ〜