一周年記念リクエスト小説・シャドーマン×ナイトマン。
せつはなみ様のみお持ち帰り可能です。





<変化し続ける日常と、日常とは呼びたくない甘美な時間>



チーム解散から一ヶ月。
我輩は姫様と共にクリームランドへと帰還し、普段通りの日常へと戻った。
世界は平和を取り戻し。
特に変わりもなく日々を過ごす。
…いくつか追加された習慣を除いては。
例えばそれは、姫様の護衛チーフの変更。


「…では、今回のニホン訪問もまたダーク・ミヤビ殿に護衛を」
『えぇ、彼なら護衛以外も満点ですし』
「左様で。それならばまたその旨のメールを送りましょう」


薄紫のネグリジェに身を包む姫様に一礼して
甲冑プログラムを解除し、擬人化プログラムを実行する。
画面の向こうで微笑む姫様に小さく笑みを返す。
その後就寝の挨拶をし、優雅に手を振られた姫様によって、静かにPETの電源が落とされた。
そう。
追加された習慣の一つがこれだ。
高い背丈に姫様と揃いの金糸の髪、金の瞳に褐色の肌。
身を包むのは姫様自らデザインを手掛けられた濃紺の騎士服。
この“人の姿”にも随分慣れてきたが、まだ少し違和感が残る。
なにしろ今まで甲冑で生活していたのだから当たり前だが…
最近は人の姿の方が習慣になってきていて。
…そしてまた、この人の姿を保ちたくなる習慣もあるわけで。


「む、姫君は既に床につかれたか」
「今しがたな」
「ふむ…ま、メールは朝一番にでも渡しておいてくれ」


背後からかかる低いが澄んだ声に静かで凛とした気配と、
ポニーテールのせいで覗く我輩の項に触れる薄い唇の感触…
こそばゆい感覚に小さく笑って身をよじれば、彼も小さく笑う。
ソファに腰を下ろした我輩の前に片膝をつく彼は。
先程の話に出ていたダーク・ミヤビ殿のナビ。


「今日は来るのが早いな、シャドーマン」
「仕事がなかったものだから急いで来た」
「嬉しい限り」


我輩の左手の甲にキスを落とす彼を眩しい面持ちで見つめてしまう。
サイドだけ長い黒髪が彼の褐色の肌を滑る度、
伏せ気味のエメラルドの瞳が瞬きで煌めく度、
長い睫毛が、その綺麗な瞳に陰を落とす度…
胸が甘く締め付けられるように微かに痛む。
擬人化プログラムを実行せずとも美しいが、人の姿をとった彼もまたとても美しい。
彼を見る度胸が高鳴るようだ。
これほど美しい者を誰にも渡したくなくて、彼にも我輩を見ていて欲しくて…
まるで幼い少女の初恋のようだ。
―いや、それよりタチが悪い。
スリープを削ってまで彼との逢瀬を心待ちにしているのだ。
公務中に彼の顔がちらついてミスをすることもある。
ナビである我々にも感情は存在するのだ、と深く理解する瞬間―
彼はどうだろうと気になったりもして。

じ、と見つめたまま何も言わない我輩を不思議に思ったか。
シャドーマンは立ち上がって
我輩の鼻先に小さくキスを落とした。
…付き合う前まではもっとストイックだと思っていたのだが
案外彼はキス魔なようで、それに慣れない我輩は相変わらず驚いて身をすくめてしまう。


「…お主は可愛いな」
「からかわないでくれ!」
「拙者はいたって本気だ」


クク、と喉の奥を小さく鳴らす笑い方。
シャドーマンのオペレーターも同じ笑い方をするのだが…
最近二人とも笑みに裏表がなくなってきた気がする。
もちろん彼のオペレーターも見た目とは裏腹に優しいのだが、
常に何か別のことを隠し持っていそうで…
付き合い初めは遊びではないかとよく悩んだものだった。
そんな事をぼんやりと思いだしていたら、目の前に顔を寄せられて
思わずのけぞった鼻先にまたキスをされる。


「何を考えている?」
「…それは」
「拙者の事であろう?…違うか?ナイト」


自信満々の物言いだが…図星なので上手い反論が思い付かない。
我輩の反応で合点がいったらしく、また笑われてしまった。
…そうだ、付き合う前はもっと冷めているとも思っていたのだ。
付き合いはじめてからそれは幻想だと分かった―勿論、良い意味で。
彼は見た目に反して「愛情をオモテに出すタイプ」なのだ。
恋人になるなら我輩の前では覆面はやめてくれ、と頼んだ時など
「それくらい当たり前だろう」と逆に驚かれたくらいに。

隣に腰を下ろして、我輩の頬にキスを贈るキス魔な一面も。
意外に自信満々な一面も…様々な顔を持つシャドーマン。
我輩は本当に彼が好きだ。
毎夜遊びに来るか、もしくは連絡を寄越す彼を、本当に信頼している。
そう考えた途端に我輩は理解した。
シャドーマンの事を考えていたのではなくて、


「困った事に…其方の事以外、考える事など出来なさそうだ」


そう告げた瞬間、シャドーマンは一瞬呆然とこちらを見、
次の瞬間にはくつくつと喉の奥で笑ってまた我輩の目元にキスをくれた。


「くく…可愛いことを言ってくれるついでに、拙者からも頼みがあるのだが」
「ン、何だ?」


シャドーマンが近寄れ、と指で示してくる。
隣に座る彼の肩に少しもたれて耳を寄せると。
あの、低くて綺麗な声が…真っ直ぐに我輩の鼓膜を震わせて。
思わず真っ赤になるような事を囁いてきた。


「なぁ、ナイトよ…何時になったら“シャドー”と名で呼んでくれるのだ?」


顔が朱に染まるのが分かる。
思わず耳元を手で押さえて後ずされば、彼はにんまりと笑ってこちらを向いた。


「こちらばかりプレゼント、はフェアではなかろう?」
「そ…それ、は…」
「…ナイト、」


気付いた時、彼は我輩の真正面に居て。
ソファの背もたれに両手をついているのが横目に見えた。
―彼の腕に閉じ込められて、
けれども我輩は動くことが出来なかった。
エメラルドの瞳が我輩の心を見透かすように見つめている。
切れ長の瞳が、我輩の答えを待つように…ス、と細められた瞬間。
我輩は我慢できずにその細い身体にしがみついていた。


「…ナイト?」
「…っ」
「ナイト…呼んでくれ、拙者を。他人行儀にフルネームで呼ぶ事なく」


さぁ、と。
ひどく優しい声が耳元で響いて。
まるで操られたように、ひどく簡単にその言葉は唇から滑り落ちていた。
つい付け足した一言に彼は満足そうに笑って
今度は唇に…一番優しいキスを贈ってくれたのだった。



事ある毎に、我輩は心の中でシャドーに対する項目を付け加える。
キス魔。(ただし常識家でストイックでもある)
自信家。(恐らく自分の容姿に関しても深く理解済み)

そして、
ひどく独占欲の強い、子どものような一面と、
我輩を本当に大事に扱ってくれる、優しい大人の一面を持つ

世界で一番、大切な人。











なんか色々スイマセン…
遅くなった上にリクエストいただいたものとかなり違う代物に…!
普段はナイトマン×シャドーマンでして、逆転をしたのは初めてでした(汗)
しゃ、シャドーって攻めになるとこんな感じなのかな…?(初書き攻シャドー)
至らぬ点は山ほどあるので書きつくせません!
駄目な人でスイマセン…せつはなみ様、こんな駄文でよろしければどうぞ捧げさせていただきます。