01:頬に 
  
  
  
最初は、頬に。 
  
その次は額に、その次は…唇に。 
  
そういきたかったんだけど。 
  
  
『…カーネル〜』 
『何だ?』 
  
  
声をかけても、読書に集中しているカーネルは。 
聞こえているのかいないのか、生返事しか返さない。 
いや、聞こえてはいるだろうけど。 
聞いては…いない、と思う。 
  
  
『な〜、こっち向けって〜』 
『ちょ…待て、もう少し…』 
『…なんだよ?』 
『もう少しで…犯人がわかるから』 
  
  
…これだ。 
最近のカーネルは、ミステリーだかサスペンスだか知らないけど、 
そういった小説にはまっている。 
元はフーガが読んでいたものなんだけど。 
貸してもらったら、そこからのめりこんだらしい。 
  
恨むぞ、フーガ。 
  
  
『…ッたく…早く読めよー』 
『あぁ』 
  
  
仕方なく、オレはカーネルから少し離れた。 
文字を追うカーネルの目は、真剣そのものだ。 
ちょっと可愛いな、と思いながら。 
その次には、オレの目は…カーネルの頬へと向いた。 
整った、横顔。 
―この間、始めてその頬に触れた。 
メットと、頬から顎にかけての赤いギア。 
両方をはずして、ようやく触れられる―カーネルの顔。 
普段は顎までギアがあるから、そうは思わなかったんだけど。 
ギアを全て取り去った、素顔のカーネルって。 
…案外、幼い顔立ちをしてる。 
  
  
『…(髭がないからか?)…』 
  
  
そもそも、ギアが髭のように見えただけなのか。 
そこの所はよくわからなかったけど。 
とにかく、カーネルに触れることができただけで。 
一歩前進できたから。 
  
  
『…くぁ…』 
  
  
眠くなってきた。 
知らず、小さく欠伸を漏らす。 
さっきから、もうずいぶんと待った。 
待ちくたびれた。 
なんだかんだ言って、カーネルはずっと本を読んでしまっている。 
そりゃそうだ。 
カーネル、あとがきまで読むタイプだから。 
  
  
『…』 
  
  
結局、もう少し、あと少し、と待つうちに。 
オレは、舟をこぎ始めて。 
意識を、眠りの渦へと引き込んでしまったのだった。 
  
  
  
◇◆◇ 
  
  
  
…ちゅ。 
  
ちゅ。 
  
  
『…ン…?』 
『あぁ、起きたか?トマ』 
  
  
ちゅ。 
唇が、オレの頬に触れて。 
  
  
『―っ!?』 
『すまない。待ちくたびれてしまったのだな』 
『カ、カーネル…!?』 
  
  
ゆっくりと、カーネルの指がオレの頬を撫でる。 
飛び起きると、オレはソファーに寝ていて。 
シンプルな黒のデザインに、それがカーネルの部屋のものだということを理解する。 
先ほどまで、少なくとも起きている間は…カーネルの隣に座っていたのに。 
…運んでくれたのだろうか。 
  
  
『わ…りぃ、わざわざ…』 
『かまわん』 
  
  
肯定の頷きの後。 
ちゅ。 
今度はカーネルの唇が額に触れて。 
そこでようやく、オレは自分のメットが外されている事に気づいた。 
ついでに、カーネル自身のメットとギアも。 
  
  
『オレ…どれくらい寝てた?』 
『30分と言った所だ』 
  
  
ソファーに座りなおすと、カーネルがオレを引き寄せる。 
マントにすっぽりと包まれて。 
オレは、カーネルの膝に乗り上げる形で、真正面から抱きしめられた。 
珍しい。 
カーネルから、オレに触れてくるなんて。 
  
  
『本、読み終わったのか?』 
『あぁ』 
  
  
膝立ちになって伸び上がると、ちょうど同じ位置。 
重なった、オレとカーネルの顔の高さ。 
…今なら、キスできるかも。 
そう思って、顔を寄せようとしたら。 
カーネルの指が、オレの唇に触れた。 
  
  
  
『…な、何だよ?カーネル』 
『……』 
  
  
じっと、カーネルがオレを見つめる。 
きれいなエメラルドの瞳が、オレを見つめてる。 
それだけで、ドキドキする辺り…オレって、カーネルに心底惚れてるんだなぁ、って。 
ぼんやり思いながらも、カーネルの言葉を待った。 
  
  
『トマ』 
『ん?』 
『私のことが、好きか?』 
  
  
唐突なセリフに、一瞬頭が真っ白になる。 
おずおずと言った感じで尋ねてくる姿。 
それが、普段の―上官としての雰囲気とは、あまりにも違っていたから。 
  
  
『好きに決まってんだろ』 
  
  
ふんわりと、羽を抱きしめるように。 
カーネルの頭を抱きしめる。 
触れ合った頬が熱い。 
逆立ってるけど案外柔らかい、カーネルの髪。 
それに指を絡ませながら、優しく梳いていると。 
カーネルがやんわりとオレを押し退けた。 
  
  
『……私は…』 
『うん?』 
『私も…好きだ…だが…』 
『…カーネル…?』 
  
  
俯くカーネルの声が震えてる。 
急いで顔を上げさせると。 
―泣きそうな顔の、カーネル。 
  
  
『…私、は…お前の気持ちに…応えることが出来ているか…?』 
『…カーネル…』 
『不安で、仕方がないっ…私なぞの、どこがいいのかと…』 
  
  
とうとう溢れ出した、涙。 
エメラルドの瞳の色を反射して零れ落ちる涙。 
すごく綺麗だと、そう思って。 
ごく自然に舌を伸ばして―それを、舐めとる。 
小さくカーネルが震えたけど、振り払ったりしなかったから。 
何度も、目元にキスして。 
  
  
『カーネルってさ、なんでそんな心配するわけ?』 
『…ん』 
『オレはカーネルが好きなんだぜ。年齢設定がどうとかじゃなくて』 
  
  
だんだんと、目元に口付けていたのをずらしていく。 
両方の手の平で頬を包み込んで…わずかに上を向かせる。 
  
  
『カーネルってさ、自分が思ってる以上に素敵だぞ?』 
  
  
ちゅ…と。 
案外、たやすく。 
さっきまであれほど苦労していたのに。 
やきもきしていたのに。 
自然と目を閉じたカーネルの頬に、唇を押し当てる。 
すべすべの肌が気持ちいい。 
そんなことをぼんやり考えながら、唇を離すと―そこには真っ赤な顔の、カーネル。 
  
  
『…ト、マ…』 
  
  
ふる、と小さく睫毛が震えて。 
ゆっくりと、カーネルのエメラルドの瞳が覗く。 
困ったように眉を寄せて、涙のせいで余計に濡れた色の瞳で。 
…そんな、捨て犬みたいな目で―オレを見ないでほしい。 
  
  
『カーネル…好きだぜ…』 
『ん…トマ…』 
  
  
お互いに、ゆっくり顔を近づけて。 
―最初は、頬に。 
その次は額に、その次は…唇に。 
そういきたかったんだけど。 
そういくつもりだったんだけど。 
  
  
『っく…ト…マ、トマぁ…!』 
『カーネル…っ、愛してる、ぜ…』 
『っぅあ、や…ぁあっ!』 
  
  
走り出したら止まれない性分のオレには、それも無意味なこと。 
結局のところ。 
いったんそんな雰囲気になってしまうと、修正が難しくて。 
  
詰まる所、俺は次の日からことごとくカーネルに無視されて。 
  
ちゃんと喋れるようになったのは一週間後のことだった、ってことは言っておく。 
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
開き直ってトマホーク×カーネル 
おそらくコロコロ版? 
多少本番っぽくしてみましたが 
サイズ的にはまったく問題ないかと(爆) 
トマカネの場合 
カーネルさんは普段は頼れる上官だけど 
ふとした瞬間に自分ってダメなんではと落ち込んで 
トマホークはそんな不安定な内面を持つカーネルを支えてあげたい 
って思ってるみたいな関係だと嬉しいです(希望系) 
なんとなく弱い側面を持つ大人の人って 
隣でお手伝いして差し上げたいんですよね 
という自分の気持ちを織り込んでみたり